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千葉地方裁判所 昭和41年(ヨ)264号 判決 1969年2月28日

申請人 金子キミ子

右代理人弁護士 尾崎陞

同 鍛治利秀

同 小池義夫

同 佐々木秀典

同 松浦基之

右復代理人弁護士 中村巌

被申請人 有限会社三浦商事

右代表者代表取締役 三浦信善

右代理人弁護士 橋本武人

同 小倉隆志

主文

一、被申請人が申請人に対し昭和四一年七月三〇日付でした懲戒解雇の意思表示の効力は、これを仮に停止する。

二、被申請人は申請人に対し昭和四一年九月以降毎月五日限り金三〇、四四〇円を仮に支払え。

三、申請人のその余の申請を却下する。

四、申請費用は被申請人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被申請人は各種燃料および燃料器具の販売を業とし、船橋市宮本町二丁目に本社を置き、これにガソリンスタンド(三菱石油花輪給油所)を附設するほか、同町一丁目にガソリンスタンド(三菱石油船橋給油所)を、八千代市にプロパンガスの卸売およびプロパンガスボンベ耐圧検査所(八千代プロパンセンター)をそれぞれ置き、従業員約四五名を擁する会社であること、申請人は被申請人会社に昭和二九年に入社し昭和三四年にいったん退社したが、昭和三八年九月一日再入社し、爾後八千代プロパンセンターに勤務していた事務員であること、ところが、被申請人会社は昭和四一年七月一五日付で申請人に本社勤務を命じたところ申請人がこれを拒否したため同月三〇日申請人に対し同日付で懲戒解雇する旨の意思表示をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

そこで右解雇の効力について検討する。

二、解雇手続違反について

被申請人会社と組合との間で昭和三九年九月一日締結した確認協定書には「会社は組合員たる従業員の解雇、配置転換及び賃金、労働時間、休日、賞罰その他の労働条件の変更については事前に組合と協議すること」との条項があることは当事者間に争いがない。そして≪証拠省略≫によれば、右事前協議条項は会社が個々具体的な解雇や転勤のたびに組合と事前に協議するという趣旨のもとに締結されたものと疎明されるから、解雇についてのこのような趣旨の事前協議条項は、個々の労働者に対し労働関係の終了に関し一定の保障を与えたという意味において、労働組合法第一六条の「労働者の待遇に関する基準」に該当すると解するのが相当である。したがって、右事前協議条項の手続を経ないでした解雇の意思表示は同条により無効といわなければならない。

ところで、被申請人会社が申請人の解雇につき組合と協議をしなかったことは当事者間に争いがないが、その協議をしなかった理由として

(1)  被申請人は申請人の本社勤務につき三回にわたって組合と協議したが、組合がいたずらに反対を唱え、会社の言い分に耳を藉さないばかりか、違法ストを敢行する有様であったから、その転勤拒否を理由とする本件解雇につき協議を求めても同意を得られる見込みがなく、協議しても無駄であったと主張している。

しかし、会社が事前協議条項により組合と協議する場合、会社は協議事項につき組合の同意を要するものではないが、具体的な事実とこれを裏づける資料に基づき、その理由および必要性を納得させ、能うるかぎり同意を得られるように努力し、誠実に協議すべきであり、同意を得られる見込みがないからといって協議をしなくてもよいものではない。けだし、会社と組合間の意見のくい違いが予想されればこそより協議をする必要があるものというべきであって、組合の同意を得られる見込みがないからといって協議を要しないとしたのでは事前協議制を設けた趣旨を没却するものといわなければならない。

また、申請人の本社転勤につき協議を経たことをもって、その転勤拒否を理由とする本件解雇には協議が不要であるということもできない。なぜならば、前記事前協議条項の文言によれば、転勤も解雇も各別に協議を要するものと解されるし、なによりも転勤は従業員としての身分を有してただ勤務場所を変更するにすぎぬのに対し、解雇は従業員たる身分を喪失させるものであるから、その性質を異にし、彼此同視することはできないからである。

(2)  さらに被申請人はそもそも本件解雇につき組合と協議すること自体期待できない情況にあったと主張するが、≪証拠省略≫によれば、会社が申請人の解雇を決意した昭和四一年七月二九日頃は、組合が申請人の転勤反対等を目的として同月二七日にストライキを実施し、一方会社が翌二八日組合員に対して就労拒否したことなどから、会社、組合間はかなり相互不信の関係にあったものと認められるが、右各証拠その他の全資料によっても、いまだ協議が不可能もしくは著るしく困難な状態になっていたものとは考えられない。

(3)  また、被申請人は、組合は申請人の転勤について信義則に従い慎重に協議しようとはしなかったのであるから、会社が転勤命令違反を理由とする懲戒解雇について協議しなかったからといって、これだけをとらえて協議条項違反を云々することは許されない、と主張するが、前述の如く、転勤命令と解雇とは別個異質のものであるから、仮に、申請人の転勤につき、組合に被申請人主張のような信義則違反の事実があったとしても、そのことの故に、会社が申請人に対する解雇について組合と協議しなくともよいものとすることはできず、この問題については別に組合との協議に付し解雇の理由および必要性を具体的に説明して審議すべきであり、これと異る見解に立つ被申請人の右主張は採用できない。

しかるに、被申請人会社では独自の判断で申請人の解雇につき組合に協議を申し入れることさえしなかったものである。そうすると、申請人に対する本件解雇は、解雇につき組合と協議をしていないからこの点において前記事前協議条項違反として無効というべきである。

右理由により、本件解雇が無効である以上、その余の点につき判断を加えるまでもなく、被申請人の申請人に対する本件解雇の意思表示はその効力を生ずるに由なく、申請人は依然として被申請人会社の従業員であって賃金を受ける権利を有するものといわなければならない。

三、仮処分の必要性について

≪以下省略≫

(裁判長裁判官 田中隆 裁判官 加藤一隆 角田進)

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